夏、18:45
2025-07-03
その時俺は部屋にいた。俺は喋っていたのかもわからぬ、でも湿度を感じる部屋の中でただ、心地よい時間が流れていた。
ふと彼女は立ちあがった。俺に向かって何かを伝えてはにかみ、ベランダの窓をキュウと滑らせ、素足を伸ばしてサンダルを探るようでいた。俺は何をしていたかわからない。その姿に目をやったあとは何をしていたんだっけ。コンピュータを弄っていたかもしれないし、リュックサックを漁っていたのかもしれない。少なくともそのとき、俺は彼女に注意を払わなかった。
彼女の気配を失ったのは突然のことだった。窓からひんやりとした風が吹き入って、半開きのレースが揺れていた。目を凝らすと、そこには見慣れぬ脚立があった。梯子というよりかは脚立だと思った。とにかく、鈍い銀色のずんぐりむっくりな脚立であった。ベランダのそう高くない塀に跨がるようにして足を浮かせ、風に揺られてコツコツと音を立てていた。
俺は嫌な予感に駆られた。一瞬の静止ののち俺はベランダに飛び出して、塀の向こうを見るべく身を乗り出した。予感は的中した。俺の視線のまっすぐ先、遠いブルーグレーの地面に叩きつけられ、彼女は絶命していた。
(夏、18:45 より)